【科学者監修】マテリアル・バーストについてわかりやすく解説|魔法科高校の劣等生

アニメ「魔法科高校の劣等生」で主人公の司馬達也が放ったマテリアル・バーストについて現役の科学者がわかりやすく解説します。
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目次
マテリアル・バーストは現実の物理法則に基づいた魔法
マテリアル・バーストは、『魔法科高校の劣等生』に登場する司馬達也が使用する、極めて高出力な戦略級魔法です。
この魔法は、現実世界の物理法則──特に質量とエネルギーの等価性(E=mc²)を応用しており、質量を直接エネルギーに変換することで、膨大な破壊力を生み出します。
この魔法のユニークな点は、ただの爆発や火炎ではなく、「空間中の微細な粒子(特に酸素原子など)」を直接エネルギーに変えるという、ある意味で「空間そのものを焼き払う」ような挙動を見せることです。

この設定には正直ワクワクさせられましたね。質量を直接エネルギーに変換するという点は、現代物理学におけるE=mc²の完全実装と言えます。作中のように、魔法としてそれを応用するという発想は、現実において「理論だけが存在する極限技術」に対して夢を抱く科学者にとっては、ロマンのかたまりです。
マテリアル・バーストは魔法というより「現実改変装置」
一般的な魔法が「炎を出す」や「風を起こす」といった自然現象を操作するのに対し、マテリアル・バーストは「物質をエネルギーに変換する」という、自然法則そのものを操作するレベルの魔法です。
つまり、魔法というよりも、局地的に自然法則を書き換える技術兵器のような存在です。

エネルギー保存則を理解していればこそ、この魔法の危険性と美しさが際立ちます。ファンタジーでありながら、「理論的に可能な要素に留めている」姿勢には、科学監修に通じるような誠実さすら感じました。魔法というより、確かに「局所的な現実書き換え装置」という表現がしっくりきます。
マテリアル・バーストのエネルギー量
マテリアル・バーストのエネルギー量について解説します。
1グラムの質量が持つエネルギー
アインシュタインの有名な公式E=mc²に当てはめて、質量がどれほどのエネルギーに変換されるかを見てみましょう。
- E = mc²
- m = 1グラム = 0.001 kg
- c = 光速 = 約3.0 × 10⁸ m/s
- E = 0.001 × (3.0 × 10⁸)² = 90,000,000,000 J(=90ギガジュール)
つまり、たった1グラムの物質が完全にエネルギーに変わると、90ギガジュール(GJ)ものエネルギーになります。

まさに私たち物理屋が日常的に扱う数式が、ここまで壮大な力として描かれるとは…。たった1グラムで90ギガジュール、理論上は正しい。そしてそれを実際に「発動できる個人」という設定が、SFと魔法の融合点として非常に魅力的です。
90ギガジュールはどれくらいの威力か?
では、90ギガジュールというエネルギーは、実際どれくらいのスケールなのでしょうか?
以下に、いくつか例を挙げてみます。
- 電気ポット(1500W)を20年間使い続けるのと同じエネルギー
- 2トンのトラックが時速4000kmで突っ込むエネルギー
- ダムから流れる水を数時間にわたって受け止め続ける規模
これらはあくまで1グラムの物質を変換しただけの話です。
作中では空気中の酸素など、立体的な範囲で「何千トン」という単位の物質を変換していると考えられるため、エネルギーは桁違いに大きくなります。

こうした日常的な比喩(ポットやトラック)でエネルギーを説明する試みは、本当に嬉しいですね。科学を楽しむ上で「感覚的な理解」は欠かせません。この魔法がどれほど桁外れか、非専門家にも伝わるようにされているのは素晴らしいことです。
想定される総出力
仮に、空間中の酸素や水蒸気などから、10トンの質量をエネルギーに変換した場合を計算してみましょう。
- m = 10,000 kg
- E = 10,000 × (3.0 × 10⁸)² = 9.0 × 10²⁰ J(900エクサジュール)
これは、自然界で発生するほぼすべての災害を上回るエネルギー量であり、例えば以下のような現象と比べることができます。

10トンの質量を変換する、というのは我々の世界ではもはや神の所業ですが、魔法という形でそのスケールを提示してくるのが本作の魅力です。エクサジュールという単位が作品に自然に馴染んでいる点が、科学好きとしては感動モノですね。
マテリアル・バーストを身近な現象と比較
マテリアル・バーストを身近な現象と比較してみましょう。
火山噴火
ピナツボ火山の噴火(1991年)では、放出されたエネルギーは約1.0 × 10¹⁷ Jとされています。
これは、10トンのマテリアル・バーストのエネルギーの1/1000以下です。
つまり、司馬達也の魔法は一人で千の大噴火を起こすようなものだと言えるのです。

「自然災害を超える魔法」という表現は、いわゆる科学と神話の融合を思わせます。これが現代社会の軍事や倫理と絡めて描かれることで、単なるフィクションを超えた知的な楽しさが生まれていると思います。
隕石の衝突
2013年にロシア・チェリャビンスクに落下した隕石のエネルギーは約500キロトン(2.1 × 10¹⁵ J)とされます。
これでもなお、10トン変換のマテリアル・バーストとは100万倍の開きがあります。

実際に隕石衝突のシミュレーションをしてきた立場から見ても、この比較はリアリティがあります。天文学的現象と並列に語れる魔法はそう多くありません。こうした構造が作品のスケール感を際立たせているのです。
高層ビル1,000棟を同時に消し飛ばす規模
たとえば、1棟1万トンの超高層ビルを吹き飛ばすのに必要なエネルギーを10⁶ GJ(1ペタジュール)と仮定すると、900エクサジュールで90万棟分となります。
これは都市ひとつをまるごと平地にするイメージに近いです。

都市単位での破壊力をイメージ化するのはとても理にかなっています。実際、エネルギー量だけを並べてもピンとこない人が多いので、こうした「都市消滅規模」の比喩は科学教育にも使えるほどです(笑)。
マテリアル・バーストはなぜ司馬達也だけが使えるのか?
なぜ、マテリアル・バーストは司馬達也だけに使えるのでしょうか。
高度な演算処理能力
マテリアル・バーストは非常に複雑な魔法であり、通常の魔法師には到底処理できない演算量を必要とします。
しかし達也は、CADを使用せずとも、独自の魔法演算処理機能を持っており、それによってこの魔法を高速で、しかも安定して実行できます。

超高精度の演算能力──これは我々が量子コンピューターやAI処理を研究する上で常に目指している理想です。司馬達也というキャラは、それを一個人の脳内に内包してしまうという、究極のデバイスとも言えますね。SFとして極めて優れた着眼点です。
精神構造の異常性
司馬達也は「感情をある程度制御されている」「常人とは異なる思考回路を持つ」など、倫理的な制限を超えた行動が可能なキャラクターとして描かれています。
これも戦略級魔法を個人で運用できる背景のひとつです。

科学者として感情を抑えて理論に徹する場面は多くありますが、達也のように「倫理と冷静さを両立した設計」は、むしろ実験装置のような美しさがあります。設定にリアリティがあり、なおかつ人間としての魅力も損なっていない点が好印象です。
マテリアル・バーストに安全装置はあるのか?
そんなマテリアル・バーストに安全装置はあるのでしょうか。
小規模化・限定化も可能
作中ではマテリアル・バーストを局地的な用途(地下施設の破壊など)にも応用しています。
つまり、威力を調整することで、対象を限定して使用できるように制御されているのです。

これはまさに「スケーラブルな技術」の理想形です。現実世界でも、核融合やAIは出力のコントロールが重要課題です。それを魔法にまで応用した発想は、技術者の目から見ても非常に説得力があります。
民間人の被害を避ける倫理観
司馬達也自身が倫理観に欠けているわけではなく、的確に「軍事目標だけを破壊する」使い方をしているため、むやみな大量破壊は行いません。
これは、物語のリアリティを保つ上で重要な設定でもあります。

ハイテク兵器やAIの運用でも最も議論されるのが「倫理と制御」。この魔法が強大であるがゆえに、ちゃんと倫理観が組み込まれているのは、単なる破壊の描写ではなく「技術の社会適応性」まで描こうという作家の意志を感じます。
まとめ
マテリアル・バーストは、魔法でありながら現実の物理法則を凌駕する、「天変地異級の超兵器」です。
そのエネルギーは、小さな質量を変換するだけで大規模災害を超え、都市を消し去る力を持ちます。
わかりやすく言えば、司馬達也は「雷神のように、空間を握りつぶしてエネルギーに変える男」とも言えるでしょう。
この力は、魔法バトルを超え、世界情勢すら左右する存在として物語に登場しています。

「天変地異級の超兵器」この一文には、本当に震えました。私たちが長年追い求めてきたエネルギーの制御とその恐ろしさ、それが一個人の手にあるというフィクションは、科学的にも哲学的にも興味が尽きません。「人間が自然を超える力を持ったとき、どう使うべきか?」という問いに、作品を通じて触れさせてくれたことに感謝したいです。
この記事の監修者

- フリーランス サイエンティスト
- 最新のAI技術とサイエンススキルを活かした研究活動にも着手しており、映画、アニメ、漫画、ゲーム、オカルトなどフィクションの世界で描かれる未来技術や不可思議現象の実現可能性について科学的考察を行っている。
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